熊本市東部の健軍で冬に開催される「健軍桜祭り」。イベント名に桜があっても、開催時期には本物の花が咲いていません。TOBIDASEは、この季節の制約を目玉へ変えるため、スマートフォン越しにピンクの花びらが舞うARエフェクトを制作しました。
出典:TOBIDASE制作記録
相談時の悩み:冬の桜祭りに、桜が咲いていない
桜並木は健軍の地域資源ですが、冬のイベントでは満開の景色をそのまま見せることはできません。装飾を増やすだけでは、来場者自身が参加したり、撮影して持ち帰ったりする体験にもつながりにくいという課題がありました。
必要だったのは、本物の開花を再現することではなく、冬だからこそ記憶に残る「桜の見せ方」をつくることでした。そこで、現実の街並みを残したまま、カメラの中にだけピンクの花びらが降るARを企画しました。
企画の方向性:冬景色へ「ピンクの雪」を降らせる
演出の軸にしたのは、花が咲いていない枝を無理に満開へ置き換えるのではなく、空から花びらが降ってくる体験です。青空や建物、冬の木々といった現地の景色がそのまま残るため、来場者は「いまいる場所が変わった」感覚を得られます。
画面の手前には大きな花びら、奥には小さな花びらを配置し、落下速度と回転に差をつけました。単なるピンク色のフィルターではなく、空間の中を花びらが通り抜けているように見える奥行きを目指しています。
実際のAR画面:街の景色に桜が重なる
以下は、掲載している実動画から切り出した実際のAR画面です。冬の木々、建物、広場と背景が変わっても、ピンクの花びらが体験の主役として見えることが分かります。



制作上の難所1:花びらを「ただの画面ノイズ」にしない
花びらの数を増やせば華やかになりますが、多すぎると背景や人物が見えなくなり、撮影しづらくなります。逆に少なすぎると、イベントの目玉として弱く見えます。特にスマートフォンの小さな画面では、粒子の密度とサイズの差が印象を大きく左右します。
そこで、手前を横切る大きな花びら、奥でゆっくり落ちる小さな花びら、柔らかくぼける粒子を組み合わせました。画面のすべてを均一に埋めず、背景が見える余白を残すことで、ARと現地の景色を一緒に撮影できるようにしています。
制作上の難所2:背景と光でピンクの見え方が変わる
ARの花びらは、青空、木の枝、建物の壁、地面など、明るさも色も異なる背景へ重なります。同じピンクでも、空では薄く見え、暗い枝の前では強く見えすぎることがあります。
本制作前のデモでは、主に次の3点を実機画面で比較しました。
調整項目 | 確認したこと |
花びらの大きさ | 近景と遠景の差が伝わり、背景や人物を隠しすぎないか |
落下速度・回転 | 雪のような静けさと、桜吹雪らしい華やかさを両立できるか |
色味・透明度 | 空、枝、建物のどの背景でもピンクが埋もれず、強すぎないか |
対策:デモで完成イメージをそろえ、現地で最終調整
動きのあるARは、静止画だけでは速度や密度を共有できません。そこで早い段階でデモエフェクトを作り、関係者が同じスマートフォン画面を見ながら、粒子サイズ、落下速度、色味を確認できるようにしました。
その後、現地の背景と光の条件で見え方を確認し、花びらが埋もれる場所や、画面を覆いすぎる場面を調整しました。AR単体の美しさではなく、来場者が実際に立つ場所で撮影しやすい状態を完成基準にしています。
体験の流れ:起動して、景色へ向け、撮影する
- イベントの案内からスマートフォンでARエフェクトを起動する
- カメラを冬の木々や会場の景色へ向ける
- 画面に舞う花びらと現地の風景を一緒に撮影する
- 写真や動画を保存し、SNSなどで共有する
専用の大型装飾を置かなくても、来場者それぞれのカメラ画面を桜の撮影スポットにできます。背景や撮る方向によって見え方が変わるため、自分なりの構図を探すことも体験の一部になります。
成果:冬の制約を、イベント固有の撮影体験へ
制作したARエフェクトは、健軍桜祭りの冬景色に桜を重ねる体験として実施されました。本物の開花時期とは異なることを弱点にせず、冬にピンクの花びらが降るというイベント固有の見せ方へ変えています。
確認できる成果:冬の健軍桜祭りでのARエフェクト実施、現地景観へ桜を重ねる体験、撮影可能な実機画面。公開されていない体験数やSNS投稿数は成果として記載していません。
季節とイベントのずれを、ARで企画に変えます
花が咲かない季節、天候で見えない景色、現地に残っていない建物など、現実の制約はAR企画の出発点になります。見せたい演出だけでなく、背景、光、来場者の動線、撮影・共有まで含めて体験を設計します。