結論を3行で
- 自治体のAR導入には補助金ルートと通常予算(自主財源)ルートがあり、規模が小さく機動性を優先するなら通常予算が現実的です。
- AR制作の実勢価格帯(20万〜300万円)の多くは随意契約の基準額(市区町村100万円・都道府県/指定都市200万円、地方自治法施行令167条の2)に収まり、入札を経ずに発注できるケースが少なくありません。
- 通常予算での稟議は、単年度予算のスケジュール(9月方針〜4月執行)から逆算した発注タイミング設計と、金額ではなくKPI・他自治体実績での説明が通しやすさを左右します。
自治体AR予算「補助金ルート」と「通常予算ルート」の使い分け
自治体・観光協会からAR導入のご相談をいただくとき、最初の分岐点は「観光DX推進事業などの補助金を使うか」「通常予算(自主財源)で進めるか」です。観光DX補助金(補助率1/2・上限1,500万円)の制度は観光DX補助金でARスタンプラリーを導入する方法で解説していますが、公募のタイミングに縛られ、交付決定前の発注は補助対象外になるという制約があります。本記事は、その裏側にある「補助金を待たずに、通常予算でどう予算を取り、どう稟議を通すか」を掘り下げます。
| 比較軸 | 補助金ルート(観光DX推進事業 等) | 通常予算ルート(自主財源) |
|---|---|---|
| 規模の目安 | 数百万〜最大1,500万円 | 数十万〜300万円前後が中心 |
| 発注できるタイミング | 交付決定後のみ(原則、事前発注は補助対象外) | 予算成立後は年度内で比較的柔軟 |
| 公募・審査 | 年1〜2回の公募・採択審査が必要 | 庁内の予算査定・議会議決のみ |
| 事務負担 | 申請書・実績報告・精算事務が重い | 見積り・起案・検収が中心で比較的軽い |
| 向いているケース | 広域・複数年構想の大型施策 | 単年度で完結する検証・小規模PoC |
通常予算ルートの最大の強みは、公募のタイミングを待たずに動ける機動性です。「来年度の観光DX補助金公募までは待てない」「まず小さく試して効果を検証したい」という場合、通常予算で先に着手し、実績を翌年度の補助金申請の材料にする、という2段構えも有効な選択です。
自治体の単年度予算編成スケジュールとAR発注のタイミング設計
通常予算でARを導入するなら、まず自治体の単年度予算編成の流れを押さえる必要があります。地方自治法第208条により、会計年度は4月1日から翌年3月31日までと定められ(会計年度独立の原則)、原則としてその年度の歳出はその年度の歳入で賄う仕組みです。予算編成は、多くの自治体で次のようなスケジュールで進みます。
| 時期 | 庁内で起きていること | AR発注担当者がすべきこと |
|---|---|---|
| 9月ごろ | 首長が翌年度の予算編成方針を決定 | 課題整理・目的の言語化、制作会社への概算相談 |
| 10〜11月 | 各部局が財政課へ予算要求書を提出(概算要求) | 概算見積もりを取得し、要求書に積算根拠として記載 |
| 11〜12月 | 財政課によるヒアリング・査定 | KPI・費用対効果の説明資料を準備 |
| 12〜1月 | 首長査定(否決分の復活要求もこの時期) | 査定結果を踏まえた仕様の調整 |
| 2月 | 予算案の公表 | 予算成立を見込んだ発注スケジュールの確定 |
| 2〜3月 | 定例会(議会)で審議・議決 | 議決後すぐ動けるよう仕様書・見積を確定 |
| 4月1日〜 | 新年度予算の執行開始 | 契約・起案、制作着手 |
つまり、翌年度4月からAR施策を動かしたいなら、その半年以上前の9〜10月ごろから制作会社への相談と概算見積もりの取得を始めるのが現実的です。見積もりの内訳の読み方はAR開発の見積書の読み方|内訳と社内稟議の通し方でも解説しています。予算が議決される2〜3月まで発注はできませんが、仕様と見積を先に固めておけば、4月の議決後すぐに契約・制作へ入れます。
随意契約 vs 入札|AR制作はどの金額区分で発注できるか
予算が確保できても、次の壁は「入札を経ずに発注できるか」です。地方自治法施行令167条の2は、自治体が入札を経ずに随意契約できる金額の上限を契約の種類ごとに定めています。2025年4月1日施行の改正で基準額が引き上げられ、AR制作が該当しやすい「その他の契約(委託業務等)」の区分は次のとおりです。
| 契約の区分 | 都道府県・指定都市 | 市区町村 |
|---|---|---|
| その他の契約(委託業務等)※AR制作はここが目安 | 200万円 | 100万円 |
| 改正前(〜2025年3月)の基準額 | 100万円 | 50万円 |
AR制作の実勢価格帯(20万〜300万円)の多くは、この随意契約の基準額に収まります。ARスタンプラリーの規模別費用はARスタンプラリーの費用相場|規模別の実勢価格と内訳で解説していますが、3〜5スポットの小規模構成(20万〜50万円)や中規模構成(50万〜150万円)は、市区町村の基準額(100万円)内外に収まることが多く、随意契約での発注を検討しやすい価格帯です。上限を超える大型施策は入札(または特命随意契約の理由づけ)が必要になります。
起案・稟議を通す実務|決裁ラインとKPIの見せ方
予算の裏付けと契約の目処が立ったら、庁内の意思決定(起案・決裁)を通す段階です。自治体の内部決裁は、一般的に担当者の起案→係長→課長→(金額規模によって)部長→副市長・市長という決裁ラインで進みます。決裁権限の金額区分は自治体の事務決裁規程によって大きく異なりますが、AR制作の一般的な規模(数十万〜300万円程度)は、多くの自治体で課長決裁の範囲内に収まりやすい金額帯です。
ここで壁になりやすいのが「前例がない」という理由での説明責任の重さです。総務省の「自治体DX推進計画」(第4.0版・2025年3月改定)では、DX担当職員が1人以下の団体が292団体、人材育成方針の策定が困難な団体が1,283団体(73.7%)にのぼることが示されており、新しいデジタル施策の予算化を一人で説明しきる負担の大きさがうかがえます。稟議で効くのは金額の妥当性そのものより、他自治体の実績とKPIの提示です。自治体のAR活用事例は自治体のAR活用事例まとめ|観光・地域活性化・イベントにまとめているので、庁内説明の材料としてご活用いただけます。
年度またぎの注意点|債務負担行為・繰越明許費と発注タイミングのリスク
単年度予算には、会計年度独立の原則という制約があります。当該年度の予算は、原則としてその年度内に支出(=納品・検収)まで完了させる必要があります。年度をまたいで支払う契約をする場合は、債務負担行為(地方自治法第214条・第215条、議会の議決が必要)や、やむを得ない事情で年度内に終わらなかった事業を翌年度に繰り越す繰越明許費(同法第213条)という手続きが必要になります。

AR制作の標準的な制作期間は、規模にもよりますが3週間〜2ヶ月程度(詳細は見積書の読み方や制作フローの解説記事を参照)です。予算の議決が2〜3月、執行開始が4月1日だとすると、そこから発注・契約・制作・現地検証を経て年度内(3月31日まで)に検収を終えるには、発注のタイミングが遅くとも夏〜秋には確定している必要があります。
通常予算で実現できる規模感・費用感の目安
ここまでの制度・スケジュールを踏まえ、通常予算で現実的に狙える規模感を整理します。当社が自治体・観光協会からご相談を受ける肌感では、最初のステップは数十万〜100万円前後、手応えを得てからの拡大で200万〜300万円台という予算感が多数派です。これは、市区町村の随意契約基準額(100万円)ともおおむね整合します。
初年度は小さく作って実績を残し、翌年度以降に予算を拡大する設計は、通常予算ルートでも同様に有効です。SNSエフェクト単体のような小規模施策から着手し、来訪者数・UGC投稿数といったデータを積み上げてから、翌年度の本予算や補助金申請で規模を広げる——この段階設計が、限られた予算枠の中で確実に成果を出す近道です。AR制作全体の料金体系はAR制作の費用相場【2026年版・料金早見表】で確認できます。
よくある質問
Q. 自治体がAR制作を随意契約で発注できる上限額はいくらですか?
A. 地方自治法施行令167条の2(2025年4月1日施行の改正後)では、委託業務等の「その他の契約」区分で市区町村100万円、都道府県・指定都市200万円が基準額です。ただし実際の運用基準は自治体の財務規則でさらに細かく定められている場合があるため、担当課の契約規則を必ず確認してください。
Q. 補助金と通常予算、どちらを使うべきですか?
A. 広域・大規模な施策で、公募のスケジュールに合わせられるなら観光DX推進事業などの補助金が有力です。一方、小規模に早く着手したい、公募を待てない、単年度で完結させたい場合は通常予算が向いています。初年度は通常予算で小さく検証し、翌年度に補助金で拡大する組み合わせも可能です。
Q. 制作会社にはどのタイミングで相談すればよいですか?
A. 予算要求(概算要求)は多くの自治体で10〜11月ごろに行われるため、その前の9〜10月ごろに概算見積もりを取得しておくのが理想です。見積もりの相談自体は予算成立前でも可能で、積算根拠として予算要求書に記載できます。
Q. 年度をまたぐ契約はできますか?
A. 会計年度独立の原則があるため、原則は年度内での完結が前提です。やむを得ず年度をまたぐ場合は、債務負担行為(地方自治法214条・215条、議会の議決が必要)や繰越明許費(同法213条)の手続きが必要になるため、早めに財政課へ相談してください。
Q. 稟議を通すために何を準備しておくとよいですか?
A. 目的とKPI(起動数・体験数・UGC投稿数・地域メディア露出など)、概算見積もり、他自治体の実績事例の3点です。金額の妥当性よりも「何のために・どれだけの成果が見込めるか」を数値で示せると、決裁が通りやすくなります。
まとめ:通常予算ルートは「小さく・早く・数字で」通すのが勝ち筋
補助金を使わない通常予算でのAR導入は、公募を待たない機動性が最大の武器です。そのぶん予算規模には制約がありますが、随意契約の基準額内(市区町村100万円・都道府県/指定都市200万円)に収まる規模から始め、単年度予算のスケジュールから逆算して半年前から動くことで、確実に稟議を通しやすくなります。
- まずは目的とKPIを決め、小規模から着手する
- 翌年度4月執行を狙うなら、9〜10月の概算要求前に概算見積もりを取得する
- 年度をまたぐ見込みが出たら、早めに財政課へ債務負担行為・繰越明許費を相談する
TOBIDASEは、自治体・観光協会向けのAR制作実績をもとに、予算要求段階での概算見積もり作成や、庁内説明に使えるKPI設計のご相談からお手伝いしています。「まずは概算だけ知りたい」という段階でも構いません。お問い合わせフォームから、想定時期と規模感をお聞かせください。概算見積もりは無料です。